【1】病と祈り  

表紙

 むかしから「人は病の器」といわれており、人は病と無縁になることはできないもののようです。それは病人だけでなく家族をもまきこむ苦悩でもあります。かつては生活環境や習慣とも密接に結びついてさまざまな病が蔓延し、また疱瘡{ほうそう}や麻疹{はしか}などのはやり病に見舞われることもしばしばありました。

 これに対して人々は、漢方薬や経験的に作られ続けてきた民間薬に頼る一方、神仏に願を懸け、また呪文や疫病除けのまじない物で身辺を守るなどの神頼みもしていました。これも真剣に病と闘う人々の姿でした。

 数ある病のなかでも人々に恐れられていたのが、いきなり大勢の人がかかる流感(インフルエンザ)・赤痢・麻疹・疱瘡・腸チフス・コレラなどの流行病です。疱瘡は痘瘡とかモガサなどともいわれる、いわゆる天然痘のことですが、命にかかわる疫病で、奈良時代からのたび重なる流行が記録に残されています。人々はこの疫病から逃れるために、疱瘡神がきらうとされた赤を身近に置きました。赤は魔除けの力をもつもので、不浄を払うとされていたのです。赤い絵を護符として使い、そのモチーフとして疱瘡除けの力があると信じられた鍾馗や鎮西八郎為朝・犬守り・達磨・みみずくなどが描かれました。

1.扇面「疱瘡を病む子ども」  国立歴史民俗博物館蔵
 疱瘡にかかって体中に発疹がでた子どもを診る医者。父母祖父母は深刻な顔である。子どものまわりには赤が多い。子どもを包む掻巻{かいまき}の裏地には紅絹{もみ}、枕も赤で、屏風にも赤い衣が掛けられている。奥に並ぶのは疱瘡除けの見舞いに贈られた品々で、赤い水引の包み、赤い達磨とみみずくの張り子があり、赤い鯛車の尻尾も見える。