2.富山に暮らす伏姫 

表紙

 安房の地を鎮めて滝田の城主となった義実は、奥方を迎え姫君にも恵まれ平和に暮らしていました。

 ところがある年、飢饉にみまわれ、さらに隣国の安西景連{かげつら}に攻められて籠城します。兵糧も底をつき、明日には落城という夕べのことです。

 義実は失意のあまり飼い犬の八房にむかって「暗闇に紛れて、敵将景連の首を喰いちぎってくれば伏姫を嫁にやる」と冗談をいいます。

 それが現実のこととなり、伏姫は約束をまもって八房と富山に暮らすこととなりました。

 里見家再興の功臣金碗{かなまり}八郎の遺子金碗大輔孝徳は伏姫の許婚でした。大輔は伏姫を八房から奪い返そうと鉄砲をかかえて富山にきました。見事、玉は八房に命中しますが、流れ弾が伏姫にもあたってしまいます。

 伏姫は一旦は蘇生しますが、八房の気を受けて懐妊したというわが身の純潔を証明するために自害して果てます。すると首にかけていたお守りの数珠の紐が切れて、「仁{じん}義{ぎ}礼{れい}智{ち}忠{ちゅう}信{しん}孝{こう}悌{てい}」の文字のある数珠球が空高く飛び散ります。

 やがて各地にこの玉を持つ8人の勇者が現れます。金碗大輔は丶大{ちゅうだい}法師という僧になり、この8人の勇者を探す旅に出るのです。

大日本六十余州之内安房 里見の姫君伏姫
歌川豊国・貞秀画