館山の気になる樹 3.  

(1)諏訪神社の自然林

平成13年館山市天然記念物指定

諏訪山山頂(館山市正木4293ー1)の諏訪神社は、延喜{えんぎ}元年(901年)創建で建御名方命{たけみなかたのみこと}を祭神とした正木郷の鎮守で、正木地区(岡・本郷・川崎・西郷)では最も由緒深いお社である。ここから眺望する光景は、館野・九重の農村地帯から市街地をはじめ、相模の山々や富士山を遠望できる。境内は花見の名所であり、近隣の人々にとっては憩いの場所でもある。夏の初めにはヤマユリが咲き乱れ、訪れる人の目を楽しませてくれる。標高74mの山頂にある社殿をとりまく林は、自然林として保護される貴重な鎮守の杜{もり}である。諏訪山の自然林は、近くの那古山などと同様、スダジイを優占種とする極相林である。自然林の構成樹は高木層ではスダジイが優占し、オガタマノキ・ホルトノキ・ヤマモモ・ヤブニッケイ・ムクノキなど、亜高木層やつる性の木本{もくほん}層ではヤブツバキ・ヒサカキ・ヒメユズリハ・テイカカズラ・フウトウカズラ・キヅタなど、低木層ではアオキ・イヌビワ・ヤツデなど林床にはツルコウジ・アリドオシ・キチジョウソウ・ヒガンマムシグサなどが見られ、房総南部を北限とする暖地性植物が多い。

(2)那古山の自然林

昭和45年館山市天然記念物指定

那古山(館山市那古670-2)は那古寺の北側の裏山で、地元ではシキビ(式部)山とも呼ばれている。那古寺は真言宗のお寺で、観音堂には館山市有形文化財の千手観音菩薩が祀られ、ほかに重要文化財の銅造千手観音立像や県指定の阿弥陀如来座像、観音堂・多宝塔など多数の文化財がある。標高82m、東西に細長い独立丘陵の那古山の自然林は、急な南斜面を覆う樹木がスダジイの極相林であり、古くから厚い信仰のもとに保護されてきた。北斜面はなだらかな地形でビワ畑が広がる。昔、スダジイ林の上にあったクロマツ林は、昭和30年代にマツクイムシが大発生し、クロマツは立ち枯れ、現在のようなスダジイ林に変わってしまった。自然林の高木層はスダジイが優占し、次いでヤブニッケイ・タブなど、亜高木層にはヒメユズリハ・モチノキ・ヤブツバキなど、低木層にはアオキ・イヌビワ・ヤツデ、草本層にはヤブコウジ・キチジョウソウなどが生育する。この森林の特徴はホルトノキ・ヤマモモ・オオバヤドリギなどの暖地性植物や、トベラ・ツルオオバマサキなどの海岸性植物が混生することである。観音堂脇の階段を上ると左手に「古屋敷」と呼ばれる広場があり、入口の両脇に太い枝が縄のようにねじれたスダジイと、四方に枝を広げたヤブツバキが門のように立ち、ここを過ぎて左折すると潮音台という展望台に出て、那古の町や鏡ヶ浦が一望できる。平成9年(19997年)に尾根伝いの「式部夢山道」が整備され、約600mの山道が東に延び、自然林が広がる。この道を東に進むと、ホルトノキがあり足元に赤い葉が見られる。更に歩くと山頂付近では夏はヤマユリがたくさん咲き、アカメガシワ・クワの実に似たコウゾブ・ヤブニッケイ・スギ・イイギリ。ヤブツバキ・ヤマザクラも見られ、麓近くはヤツデが多い。

(3)沖の島・高の島

沖の島は鏡ヶ浦に面し海抜12.8m、東西300m、南北200mで面積約4.6ha、周囲約1kmで、かつては離れ小島だったが、現在は砂の堆積(長さ200m、幅30m~80m)でつながった小島である(昭和28年頃にはつながり陸継島になった)。一方、現在自衛隊の基地に隣接した小さい丘も、かつては高の島という離れ小島だったが、埋め立て(昭和5年の海軍航空隊基地造成)によって内陸とされ、森の茂みがその名残を見せている。海抜16.7m、東西110m、南北200m、面積2.7haの台地である。どちらも常緑広葉樹のタブノキ・ヤブニッケイ、落葉広葉樹のカラスザンショウ・アカメガシワなど房総半島南部に原生していた自然林を観察することができる。沖の島の植物の種類は北限・南限の植生にわたって約240種類にのぼる。房総半島南部は地殻変動が活発で、史料に残るだけでも元禄地震(1703年)の隆起や、関東大地震の際でも、2.1m~2.4m程の隆起が確認されている。斜めになって地層(2000万円前につくられた堆積岩地層は北に傾斜)や岩がむき出しになったままの磯から、隆起を繰り返した歴史を見ることができる。チョウチョウウオやスズメダイ・ツノダシといった熱帯魚(死滅回遊魚)が生息する北限域であり、様々な生態系を観察することもできる。海岸で珍しい貝殻や流木、イルカの耳骨や化石などを探すのもまた面白い。島の周囲には高温・高塩分の黒潮分流が流入し、亜熱帯性の要素をもつ動植物が生育し、房総半島南部の自然観察やレクリェーションの好適地である。また現生サンゴの海としても知られている。沖の島には宇賀明神や無人灯台、地下壕などがあり、西側の展望台からは洲崎灯台や海岸段丘が望まれる。高の島には多賀之嶋弁財天(高之嶋辨天閣)、魚付林を植林した記念碑・波切不動・防空壕などがある。ここには農商務省水産講習所(東京海洋大学)高の島実験場が作られ、明治42年から昭和の始めまで海洋生物の調査研究が行われた。今でも施設の残跡が見られる。

(4)洲崎神社の自然林

昭和45年館山市、昭和47年千葉県天然記念物指定

洲崎神社(館山市洲崎1697)の天太玉命{あめのふとだまのみこと}の后{きさき}である天比理刀咩命{あめのひろとめのみこと}を祀る神社で、平安時代に編纂された『延喜式神名帳{えんぎしきじんみょうちょう}』にその名が見られるという、古くから広く知られた神社である。源頼朝が源氏再興を祈念し、さらに妻政子の安産祈願をしたことが『吾妻鏡{あずまかがみ}』にもみられる。また戦国時代初期、太田道灌{どうかん}は江戸城の守り神としてここの祭神を勧請{かんじょう}した(現在の神田明神)。鎮座地の御手洗{みたらし}山(標高119m)は、「ご神体山」として聖域であったため、自然のままに残された自然林といわれる。総面積は、5.4haであるが、頂上付近はヒメユズリハの優占した林、中部域(拝殿・本殿の周辺)はスダジイの極相林、下部域(階段の周辺)はタブノキの優占した林となっている。また、この林は山裾を海岸に接し、南方系や耐潮性の種(ホルトノキ・ツルコウジ・ボウシュウマサキなど)を含む房総半島南部の特徴のある自然林といえる。なお。明治期に始まった、「東京湾要塞化」の一環として、昭和2年(1927年)に西岬村坂田(館山市坂田)に配備された「洲崎第二砲台」の観測所として照明灯などを配備した「第一観測所」が、昭和4年(1929年)山頂に設置されたが、その遺構と思われるものが今も残っている。

(5)平砂浦砂防保安林

「日本の道100選」

房総半島の先端に位置する平砂浦砂防保安林は、館山市相浜から西岬の房総フラワーライン(千葉県道257号南安房公園線)に沿う延長5kmに及ぶクロマツ(黒松)の植林帯で、146haの規模である。この土地は元禄16年(1703年)の巨大地震により一挙に3mも隆起した土地で、もとは一面海底の砂地であった。秋から春先まで吹く強い西風は耕地を埋没させ、たちまち砂山と化し耕地は後退せざるを得なかった。江戸時代から農家の人達は、この砂を防止するため、笹を刈り砂地に挿し、農閑期には川の水を利用して砂を海まで流す等の作業を繰り返したが、努力の甲斐もなく砂地は広がる一方であった。明治25年(1892年)頃から地域の人達は協議を重ね、砂防工事を開始したが、遅々として進行することはなかった。その後県に働きかけ大正10年(1921年)から県費の半額助成と技術指導の援助を得て、潮風に強いクロマツ(黒松)を植栽したが、大正12年(1923年)の関東大地震で更に2m程の隆起があり、再び荒涼として砂原と化して苦労は報われなかった。戦時中は軍の演習場として使用され、さらに終戦直後の巨大な台風の来襲は土地の荒廃に拍車をかけた。これらの状況を打開しようと、開拓組合・役場・村会議員等で砂防の具体案作り等の活動を開始したが、余りに遠大な計画と見なされて計画は進展しなかった。その頃当時の県知事や県開発部長の視察があり住民達は長い間の苦しみを訴え、砂防工事の早期着手を請願、その後も度々県に工事の開始を要望した。その結果、昭和23年(1948年)「飛砂防備砂防林工事」が着工される事となり、地域を上げて全面的に協力する事を約束し、工事施行に必要な敷藁(しきわら)や資材の提供、労働力の提供も惜しむ事なく人々は協力をした。この様な努力の結果、昭和32年(1957年)、9年間に渉{わた}る工事は完了した。この大事業を後世に伝えるために記念碑が建ち、砂防の歴史が記録されている。

(6)館山野鳥の森

「日本森林浴の森10選」

館山野鳥の森(館山市大神宮553)は房総半島南部の丘陵地帯に属しながらも、山裾は太平洋の海岸に接している。南部の天神山{てんじんやま}(標高146m)と北部の吾谷山{あずちやま}(標高103m)の間は、谷津や池もある変化に富んだ地形をしている。自然の姿を利用した公園として特別鳥獣保護区に指定され、遊歩道も良く整備されて、年間を通して植物観察や野鳥観察、ハイキング、森林浴などの行事も企画され多くの人を楽しませている。森の面積は約11haで、コナラやカラスザンショウ・サクラなどの落葉樹と、低木のヒサカキ・トベラ、林床にヤブコウジ・フウトウカズラ・ニリンソウなどを交えながら、高木のスダジイ・タブノキなどの優占する林となっている。落葉樹が混在することで地面に日照と栄養が供給され多様な生物相を支えている。平成20年(2008年)の調査資料によると、野鳥の森を含む大神宮エリアには、シダ植物・種子植物・その他を合せ、およそ380余種の植物相が確認されている。恵まれた森林に多くの野鳥が生息し、年間を通して観られるのはアオサギ・カルガモ・トビ・キジバト・コゲラ・ヒヨドリ・モズ・カラスなどの21種類で、春から夏にかけてはツバメ・ホトトギス・オオルリなど、秋から冬にかけてはミサゴ・オオタカ・ハヤブサの他、ゴイサギ・マガモ・ルリビタキ・アカハラなど、多様な鳥を観る事ができる。なお平成16年(2004年)から平成21年(2009年)の間に観測された野鳥は106種類である。


<作成:ミュージアム・サポーター「絵図士」 青木悦子・川崎一・御子神康夫。吉村威紀>
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